いよいよ私も高専を出てゆく年になりました.比較的高専生活を満喫した方かなと思っているのですが,私の経験をもとに,高専生活の良し悪しを軽くまとめてみたいと思います.
(というのも,私の弟が「高専に行こうと思っている」なんてことを言い出したもので,「ちょっとお話しようか」とまとめてみたのがきっかけです.)
高専を選択肢として考えている生徒さんや,保護者さんの参考になれば嬉しいです.
繰り返しになりますが,あくまで私個人の経験を元にした発言・記載です.これが高専学生全てに通ずるものかというと,決してそうではありません.
年によって,学科によって,周囲の人によって,大きく変動しますのでご留意ください.
"偏差値合うし,高専に行ってみようかな?"
「偏差値がそこそこ高い」「自由な校風」「公立高校+公立大学よりも学費が安い」「就職率100%で大企業が多い」「センター試験・共通テストを受けずに大学に入れる」
これだけの理由では絶対に来てはいけないところであることを認識してほしいと思います.
以下につらつらと書きますが,そのどれよりも重要なことです.
上記のようなことを目当てに高専に来ると,間違いなく苦しむことになるでしょう.
高専は特殊な学校です.中高の成績はほとんどの場合関係ありません.専門に興味が持てず気力が続かなければ容赦なく留年です.2回続けば退学です.そのとき,最終学歴は中卒です.
高専とは,実践的な技術者を育成するための教育機関です.高校は中等教育機関ですが,高専は大学と同じ高等教育機関に当てはまります.
数ⅠⅡⅢABの殆どを1,2年で修め,3年次から大学数学(線形代数,解析)に入ります.1年次からプログラミングや電気回路などの専門科目を学び初め,次第にその比率は高くなります.ですから,多くの場合大卒者よりも専門性は高くなります.(実際に企業さんからよく聞く声で,これが就職率が高い所以だと思っています.)
裏を返せば,専門外のことはうっすらとしか学びません.化学・地学は基礎止まり,古文・漢文はほぼオマケ程度です.やっぱり違うことを勉強したい...と思ったとき,自分が持っている力の偏りに苦しむことになるでしょう.
各学科で学べることを理解した上で,その分野を学びたい・極めたい人にとっては,とても優れた環境ですが.
これは私の主観ですが,分野こそ違えど,高校にある看護科と近いのではないかと感じています.その"工学"版に,通いたいと思っていますか.
以下のサイトで,各学年でどのような授業があり,どのようなことを学び,どのような観点から評価されるのかを見ることができます.ぜひ,参照されてみてください.
https://syllabus.kosen-k.go.jp/Pages/PublicSchools
"高専は自由"
授業の自由度
誤解を恐れずに言うなれば,何をどれほど学ぶかは各学生に委ねられています.
その上で,得られたものが学校(ひいては文科省)の示す基準を上回っていれば,科目毎に単位が出て,進級,卒業することができます.
もちろん,必修 / 選択必修 / 選択などの区分があり,時間割が組まれてはいますが.
中学校や多くの高校のように「ここはこうしなさい」「締切超えてるけど課題出てないよ」などと教えてくれることはまずありません.
その代わり,朝課外も夕課外も土曜課外もありません.平日朝8:50に登校して,14:40か16:20には帰宅できます.
自己管理ができる人にとっては,自由に時間の使い方をコントロールできる最高の環境でしょう.逆の場合は,友達と一緒に卒業することは難しいかもしれません.
すべて自分の責任で取り組む必要があります.基準を満たさなければ,容赦なく留年です.留年が続けば,学校に残ることはできません.
毎年,クラスから数人は進級せず,もう一度同じ学年で勉強する,もしくは別の道を歩む人がいます.
課外活動の自由度
高専にも,文化系・体育系の部や同好会があります.いくつ参加するのか,そもそも参加するのか,これも自由です.
そしてそれらは,中高の"部"と,大学の"サークル"を足して2で割ったような活動方針のところがほとんどです.
顧問に怒鳴られる,ハードな練習を強制されるなどといった話は聞いたことがありません.やりたい人たちが,やりたいことをするために集まっています.
一方,高校生の年代の学生が属している以上,安全のために担当顧問はついています.基本的に活動に干渉してくることはありませんが,夜遅くまで活動したり,毎日のように続けて活動したりといったことはできません.遠征や合宿などには,必ず付き添ってくださいます.
大学のような自由さと,中高のような安全のための決まりが兼ね合わさった,そんな形態です.
部員から徴収する部費と,学生会予算からのクラブ活動費,状況によってはさらに校長裁量経費や後援会からのバックアップが加わるため予算が少なくないというのも特徴かもしれません.私が所属していたところには,放送局と同等のスタジオや機材,中規模のライブハウスと同等の音響,映像,照明演出機材を操るクラブがありました.
日常生活の自由度
先に述べたように,授業終了後はすべてを自由に決められます.帰ってもよし,教室で友人と話していてもよし,クラブ活動に行ってもよし,図書館で勉強してもよし,もっと自由な生活をしていた友人もいます.
要は各科目が定める合格条件を満たしさえすれば,何をしてもよいのです.赤点基準の60点ギリギリを攻める学生もいれば,全科目100点を狙う学生ももちろんいます.高得点を狙う学生がほとんどでしたが.
ただ,学年が上がるにつれレポート課題はどんどん増えます.求められるレベルも上がります.放課後や休日にきちんと時間配分ができるならば,問題なくこなせる場合がほとんどですが,決して楽なものではないということは記しておきたいと思います.
情報系の学科ならば,ノートPCや外部モニターはケチっちゃ駄目です.紙とペンの代わりに,いやそれ以上に使うようになります.起きてから寝るまでずっと向かい合います.
ちなみに,「大学生活は人生の夏休み」なんて声を耳にしたことがありますが,少なくとも高専における大学生と同じ期間については,決してそんなことはありません.小学校から中学校に登って求められるレベルが上がったように,どんどん高度なことを求められます.ただ,理系の学部に属する大学生も同様な気はしますけどね.だいたいレポート地獄で,常にレポートに追われるのが当たり前,という感覚です.
卒業後の進路
就職
就職率高いですよね.そしてその内訳を見て,「こんなところに行けるのか!」とびっくりされた方もいらっしゃるかもしれません.カラクリと言うと聞こえは悪いかもしれませんが,私が体験したことを元に,私が思う考えを述べます.
一般に,大学を卒業すると「学士」という学位がもらえます.その後大学院博士前期課程を修了すると「修士」,そのまま大学院博士後期課程まで修了すると,「博士」です.
では,高専はどうでしょう.実は,学位はもらえません.卒業式で受け取るのは,学位記ではなく卒業証書です.ただし,学位の代わりに「準学士」という”称号”が得られます.学位というのは称号のなかの1つの区分なので,どちらも称号ではあるのですが,「準学士」は学位ではありません.海外では通用しません.
少し余談ですが,同一の年数を過ごすはずの高校+短期大学という経路だと,「短期大学士」という学位がもらえるそうです.謎ですね.高専でも卒論書くのに.
話を戻します.端的には,先に述べたように大卒より専門性の高いことを学ぶにも関わらず,一般には高専卒は大卒よりも下に見られます.学術機関への所属年数が短いという点では頷けますが,より業務で使用できる知識や技術力をもっている点が評価されてこの就職率ということを踏まえると,なんなんだろうなぁと感じることもあります.
さてこれの何がイヤかというところですが,多くの場合,大卒者とは違うレールに載せられるのが現状です.例えば,
- 現場職にしか携われない
- 昇進,昇給のスピードが違う
- そもそも一定のレベル以上に昇進できない
- 同じ仕事をしているのに,大卒者と給与が明らかに違う
- 自分より詳しくない人の元で働かされる
といったことが,実際に存在しています.
また一定以上の企業や職では,そもそも高専生は取らない,もしくは修士以上しか取らないというところも当たり前に存在します.
ただし,すべての企業がそうという訳ではない点を併せて述べておきます.
大企業でも,大卒と高専卒の壁を作らず入社さえすればあとは同等とみなし,入社後の年数や社内試験などによって公平に対応してくれる会社もあります.それでいて大学生よりも高専生のほうを積極的に採用してくださる企業もあります.(多くの高専生はそれをインターンシップで見極めます.)
そうでない企業に入ってしまっただとか,別の事情でその会社を辞めることにしたなどの理由で次の企業を探すとき,自分が持つ学歴カードに大学という文字はないということも,事実ですが.
ただ,大卒と比べ高専生は母数(学生数)が少ないため就活しやすいという声はあります.大企業への推薦も多いですし.良し悪しですね.まぁ運要素がなかなか大きく一概には言えませんので,これくらいにしておきたいと思います.
進学
就職せず,進学する道もあります.高専卒業後,大学の3年次に編入したり,高専にある"専攻科"に進んだり,ということです.高専にもよりますが,私のところでは概ね就職:進学=5:5くらいでした.
非常に稀ですが,高専3年修了時に高校生と同じように入試を受けて大学生になることもできます.入試に必要な科目が高専で学べない場合,独学する必要がありますが.
専攻科では,高専の5年間(専攻科に対し,本科と呼びます.)で学んできた内容のより高度なことを,同じ高専の先生方から,同じ敷地内で学びます.
2年間の課程を終了すると,大学(学部)卒と同じ「学士」の学位を得ることができます.大学に編入するよりも学費が安く済むのもよいところです.
さらに専攻科修了後,他大学の大学院の入学試験を受けて歩んでゆく人も少なくありません.
一方,専攻科では自分の興味のある分野を究めることができない,新しい環境に進みたいといった場合には,編入試験を受けて大学の3年次に編入することもできます.
ほとんどの場合,試験科目は数学と専門科目だけです.所によって,物理や化学,面接などが加わりますが,センター試験や共通テストなどと比べると競争率が低く科目数も少ないためこれを「裏ルート」などと称されることもあるようです.実際,地元の国公立大学のほか,東工大や電通大,旧帝大などに進む人も少なくありません.この辺りは,自分が何を勉強したいのか,どこの大学のどの先生の研究室に所属したいのか,そういったところが重要になってきます.
詳しくは,以下のようなサイトで生の声を見ることができますので参照されてみてください.
最後に
合っている人にはとても素晴らしい環境であると同時に,合わない人には地獄のような環境とも言える高専について散々述べてきましたが,いかがでしたでしょうか.
「自分にぴったりだ!」と感じた方も,「うっかりやばい学校に出願するところだった」という方もいらっしゃると思います.ただ,このページに記載していることはすべて私の周りでの事例に過ぎないことは忘れないでくださいね.オープンキャンパスなどで,自分が身を置きたいと思っている高専の学生や教員との会話を通じて,より深く理解されることをおすすめします.高専生の多くはTwitterに生息していますので,そちらで探してみてDMを送ってみるというのも良いかもしれません.
このページに記載したことが,たとえ1人でも望む進路を決める助けとなれば幸いです.