とりあえずの記録

はじめは同学科の人向けのナレッジまとめでした

アナログ音声信号とデジタル音声信号

(注) 本記事は,私が某組織内Wikiに作成した記事のアーカイブです.

中学校を卒業したばかりの学生を対象として執筆したものであり,簡略化のため一部厳密性に欠ける箇所がございます.

また,時折り筆者の偏見が混じっております.ご了承ください.

はじめに

本稿では,アナログ音声信号とデジタル音声信号の違いについて解説します.

デジタル音声信号とは何か

それでは,先にデジタル音声信号とは何なのかを見ていきます.

デジタル音声信号とは,アナログ音声信号を標本化量子化したものです.

言い換えると,

ものすごく短い時間ごとに区切り,その細かい区間ごとに値をとることで,連続した信号を数値化したもの

です.イメージとしては,以下の画像のような感じ.

あくまでイメージです.

このとき,どれくらい短く時間を区切ったかをサンプリング周波数,値をとる時にどれくらい細かく読み取ったかを量子化ビット数といいます.

また,1〜@@@Hz(音の高さを示す値)の音源をデジタル化するとき,サンプリング周波数を"@@@×2倍の値"にすれば,再びアナログに戻すときに完璧にもとの信号を再現することが出来るという定理があります.これをサンプリング定理や標本化定理といいます.(全学科いずれ授業で習うよ.)

人は最高で約20kHzまで聴こえますので,おおよそ40kHzのサンプリング周波数でデジタル化すればよいということになりますね.(とは言っても,16kHzくらいまでしか聴こえない人も少なくなく,歳を取ると14kHzやそれ以下までしか聞こえなくなります.)
実際,CDではサンプリング周波数を44.1kHzと定められており,PA業界では48kHzが一般的です.最近出てきたハイレゾ音源であれば96kHzや192Hzなどもありますが,ほぼほぼ無駄,ということですね.*1詳しくは以下をご覧ください.

(削除済み)

デジタル音声信号にはメリットがたくさんあります(後述します)が,アンプやスピーカー,イヤホンなどにデジタル音声信号をそのまま送り出すことは原則できません.
アナログ音声信号に変換してから出力させる必要があります.
(厳密には例外があります.)

アナログ音声信号とは何か

ずるい言い方をすれば,デジタル信号でないもの.
もうちょっと丁寧に言えば,私たちが普段ケーブルを使って扱うほとんどの信号がアナログ音声信号に当てはまります.

例えば,

  • CDプレイヤーからRCAケーブルでスピーカーにつなぐとき.
    (S/PDIFを除く)
  • XLRケーブルでマイクやミキサー,その他の機材を接続するとき.
    (AES/EBUを除く)
  • 楽器からアンプにTSケーブル(フォノケーブル,シールド)で接続するとき.
  • パソコンやスマートフォンにminiTRS端子のイヤホンを繋ぐとき.

これらは全てアナログ音声信号を伝送しています.パソコンやスマホから出力するとなんとなくデジタルっぽく感じますが,基本的にアナログ音声信号です.(機器の内部ではデジタル音声信号に変換して処理しています.)

デジタル音声信号の良いところ

記憶媒体の劣化による損失が軽減されます.

アナログ音声信号の場合,例としてわかりやすいのはレコード(板を削って記録する)です.形として残す以上,経年劣化で次第にすり減っていって買った直後と違う音になることがあります.
また,カビや欠けが起こる可能性もあります.

しかし,デジタルの場合はそこにデータが存在するかしないか(0または1)の2択です.すり減って収録直後と5年後で音が変わる心配はいりません.

読み取り方による聞こえ方の変化がありません.

こちらもアナログ音声信号としてレコードで記録した場合を例にとります.
レコードは,先端にダイヤモンドを使用した針を上からそっと載せ,僅かな上下の揺れを読み取ります.
ですから,例えばわずかに針が斜めに向いた場合や,強風が吹いている状況などでは,一般的な再生をしたときと比べて違った聞こえ方がします.

一方デジタルの場合は,明確に値が示されています.0110はどう読み取っても0110です.もし読み取れなかった場合には,読み取れなかったというエラーが返ってきます.想定していない値(録音したときと異なる音)を読み取ってしまうことはありません.

ケーブルの抵抗による減衰に対し強く,対策を取ることもできます.

普段使うケーブルにも,僅かながら抵抗があります.(基礎電気学で導体の抵抗として,TEは高学年になるとLやCの成分も加味した分布定数回路というものを習います.)
そのため,長距離伝送すると次第に電圧は下がっていきます.0Vは0V(基準)のまま変動しませんので,音の大きさの振れ幅がだんだんと小さくなっていくわけです.

(初めは無音の状態を0V,一番大きい音を1Vとして送っていたとすると,音の大きさは0~1Vの範囲を使って表現できることになりますね.
抵抗を持ったケーブルを通していくと,この一番大きな音を示す電圧がどんどん下がっていき,例えば0.5Vになったとします.
すると,当初0~1Vで表現できていたものが0~0.5Vの範囲までつぶされてしまいます.
受け手の機材でこれを0~1Vの範囲になるよう感度を上げて処理することもできますが,もともとあった繊細な変化を再現することはできません.)

一方デジタルの場合,今は0か1どちらなのかという情報さえ伝送できればよいため,多少表現の幅が狭まろうと問題ありません.
受け手の機材で感度を上げても,電圧が低い状態か高い状態かということさえ分かれば,後の処理で完璧にもとの信号を再現することができます.

さらに,デジタルの場合,「受け取った側が,本当にこれが送られた当初の値と変わっていないか,という確かめができる値」を,もともと送りたかった音声信号の間にちょいちょい挟み込みながら伝送していくこともできます.
(この仕組みの1つとして,パリティチェックが挙げられます.コンピュータ間の通信でも度々用いられています.)

周囲のノイズ源による聴こえ方の変化が(ほぼ)起こりません.

ON/OFF(1/0)で伝送するため,アナログ伝送時のように一部のところだけ不自然に電圧がじわじわと上がったり下がったりしてもさほど影響がありません.

ただし,0/1の判別が難しくなるほど減衰,もしくは強力な妨害を受けた場合にはデータがおかしくなります.

デジタル音声信号の悪いところ

以上の項目を見ると,アナログ音声信号と比べてデジタル音声信号の良いところが目立ち,全部デジタルにしてしまえばいいように思えます.
しかし,そうもいかない事情があります.

複数の条件が全て揃わないと,一切通信できない

デジタル音声信号には,デジタル化した後の数値の扱い方や伝送電圧,使用するケーブルなどが異なる複数の種類の信号があります.
例えば,送り手がS/PDIF(optical)という種類のデジタル音声信号を出力したとして,受け手が対応しているデジタル音声信号がADATのみだった場合,たとえ物理的にケーブルを接続できたとしても,通信できません.
(実際,ここで例として上げた2つは使用するケーブルが同一のものです.ただし,規格が異なるため接続できても通信はできません.)

また,受け手・送り手が同一の種類のデジタル音声信号を使用して通信を試みたとしても,以下の項目が全て合致していないと,やはり一切通信できません.

  • サンプリング周波数(上述)
  • 量子化ビット数(上述)
  • クロック(学科で回路を組むときにNE555というタイマICを使用してCLK信号を取り扱ったことと思います.似たようなものです.)

クロックについては,以下の記事で説明しています.

(削除済み)

一方アナログ信号はというと,一切変換していない生の値が電圧として出ているため,特に考えずに接続しても伝送できます.
スピコンとRCAなど,たとえ規格の異なる端子であっても変換端子を駆使すれば接続できたりしますよね.

ということで,アナログ音声信号の方が断然扱いやすいのは分かって頂けたかなと思います.

まとめ

以上のことから,デジタル音声信号とアナログ音声信号は状況に応じて使い分けていく必要があります.

具体的には,

基本的にはアナログ音声信号を使用する.

送信側/受信側ともに,その信号を処理できる環境が用意できるときに限り,デジタル音声信号を使用する.

このようになります.

最後に,各種のデジタル信号については以下の記事で解説しています.併せてご覧ください.

(削除済み)

*1:誤解を招く表現であると承知しております.