とりあえずの記録

はじめは同学科の人向けのナレッジまとめでした

IETF 117 現地参加記 Vol. 6 Plenaryで感じた,IETFの光と影

この度,JPNIC様の国際会議参加支援プログラムにご採択いただき,IETF 117に現地参加させていただける運びとなりました.

2023年度 IETF参加支援 - JPNIC

初めての渡米,初めてのIETF Meetingということで,可能な限りの情報をここに残しておきたいと思います.

このページでは,中日に行われたPlenaryに関することについて記します.
現状,うまくまとまっているとは到底言えないのですが,Done is better than perfect. の精神で暫定的に公開しております.

その他の記事は以下よりご覧いただけます.

tamasan238.hatenablog.com

Plenary

はじまりはじまり.

IETF Meetingでは,中日となる水曜日の最後のコンテンツとして "Plenary" (全体会合)が用意されています.

  • ホスト(NOKIA)による挨拶
  • IETF Chair・IESG・IAB・IRTF・NomComなど,関係各位による報告
  • 関係者の追悼
  • Open Mic Session

といった流れで進みます.

スライドは以下より参照いただけます.

https://datatracker.ietf.org/meeting/117/materials/slides-117-ietf-sessc-all-slides-ietf-117-plenary

今回のIETFは,ちょうどサンフランシスコマラソンの開催日と重複していました.
よって(?)その両方に参加した方には表彰が.

大きなメダルは,IETFSecretariatの手で製作されたそうです.

また,今回のIETFでは託児サービスが提供されていたとのことでした.
お客様の声は大切です.

「ともだちとあそべて、とてもたのしかったです。」(職業:子ども,年齢:3歳)

さて今回のIETFには,日本から総勢60名程度の参加者がいたようです.

内訳は以下の通り.(数名の誤差を含む可能性があります.)

  • オンサイト:40名
  • リモート:20名

世界で6位の参加者数でした.

追って,これからの各組織のChairの紹介などが行われました.

Open Mic Session

この記事のメインコンテンツはこちらです.

一通りの発表が終わると,参加者が自由に発言してChairたちと対等に議論できるOpen Mic Sessionが始まります.

まず,こういった取り組みがなされている事自体に驚きました.
参加者が集う中,Chairたちはいかなる意見や質問にも適切に応じなければなりません.
運営する立場に立って考えてみると,いかに難しいことであるか想像がつくかと思います.
時間内に収拾をつけなければならないプレッシャーは,相当なものであるはずです.

まず1人目は,リモート参加のお爺さまからでした.
異議申し立てをしているが,進展がない.どうなっているんだ,というご意見.
どうやらChairたちとのやり取りの中で齟齬が生じていたらしく,こちらは比較的スムーズに話が終わりました.

そして2人目は,NomComによって提供されていた会場ネットワークについての意見.
こちらもスムーズに終わります.

重要な問題はここからです.
次のご意見は,以下でした.

「Diversity and Inclusionと謳っているが,各組織のChairは“old white guy”ばかりじゃないか.何をしているんだ.」

ハッとさせられました.

今回のIETFでは "Diversity and Inclusion Sponsors" を募り,膨大な資金を集めています.
そして,確かについ先ほど発表されたChairたちの多くは“old white guy”ばかりです.
ぼうっとスライドを眺めて,「この人たちが次のChairなのか」と特段何も感じなかった自分を恥じました.

ここから,立て続けにとても多くの方々がD&Iについての意見を述べ,Chairたちとの議論が始まります.
以下に少しだけ,発表された意見やこれに対する返答を抜粋してみました.

なお,ここに示す内容は私が拙い英語力・記憶力でメモしていたものに過ぎません.
本来の意図とは異なる意訳が含まれている可能性が多分にあります.
ぜひ,アーカイブ映像をご参照ください.

IETF117-PLENARY-20230727-0030 - YouTube

一通りの引用の後に,自らの考えを示します.

事実,顔を上げてみると“old white guy”が多い.
しかし,候補者の殆どが“old white guy”という現状があり,そしてまたこちらから見ても“old white guy”ばかりであることも事実である.
ぜひ,同僚や身近な人をIETFに参加し,深く携わるように助言してください.
我々はIETFにおいてリーダーシップを張れる人材を求めている.
問題に対してお金を投じるだけでは解決しないと言わざるを得ない.
企業からDiversity Moneyをもらっているが,企業はIETFに同じ人材を派遣している.
誰がIETFに送られるかによって決まることでもある.そして皆さんはたくさんのことができる.
我々が取り組める追加のアクションがあればぜひお知らせください.

なぜみなさんがテーブルに座っているのか より,
なぜテーブルメンバーが聴衆と同じように見えないのか ということだろう
座っているみなさんはとても頑張っている.
しかし,聴衆にはもっと多くの女性や過小評価されている人々がいる.
ここのいる人々が同じ機会を確実に得られるためにはどうすればよいかを考えるのがよいかもしれない

私達は積極的に提案を求めている.
例えば,保育について提案を受け,これを確立した.
うまくいっているほかのイベントがあれば,知らせてほしい

いえ,それは資金が増えるだけである.
WGや運営で何が起きているか,内面を観察することが必要である.
解決不可能なものではない

時にはお金が役に立つこともある
例えば,クローズドキャプションがついており,これはほんの些細なことであるが役に立っている.

お金を投じるだけでは十分でない
しかし,予算と何をするべきかのアイデアがいることは事実だ.

例えば,50人をここに送ることにお金を使うのであれば,彼らがここに戻ってくる方法を見つけなければならない
文化,教育,...
新しい人は,1,2回の会議にしか訪れない.新しい人材の定着率を高める方法が必要である.

18人の手数料免除が行われたというが,ここにいる人数を鑑みるとそれは十分ではないと思う.
財務状況がどうなっているか分からないが,お金を持っていない人々がここに来ることを助けるために,もっとできることがあるだろう
部屋を見渡すと,全体的に高齢化が進んでいる.大学と連携して,もっと多くの大学生を受け入れられればより素晴らしいだろう.
新鮮なアイデア,新しい人々,とてもよい.
人材の維持について,もっとできることがあるだろう.

IETF Webサイトに書かれた内容を読んだ,運営方法についてすべてのRFCを読むことができるが,非常に大規模な組織なのでなかなか理解が難しい.
最初のミーティングでもっと協力関係を築くことが重要だ

  • 誰がD&Iについて何らかの形で責任を負っているのか
  • 誰のところに行けば,内密に議論することができるだろうか,
  • 監視し,測定するために,私達は何をしているか

といった,基本的な質問について理解する必要があるだろう.

誰かが帽子をかぶらなければならない.”ここにいる誰か”が担当しなければならない.

エンジニアが出席するには,マネージャを説得しなければならない.
彼らはIETFを知らないことも多い.
エンジニアが出席することについて同意してもらい,これを維持することが非常に難しい

上席の人,つまり管理職の参加者が多い
彼らは若い同僚と働いており,決裁権を有している.
誰を来させるかについて,配慮が必要では

1回限りの参加者がいる理由について,調査をしているのか気になる.
ただ来てもらうだけでなく,継続して来てもらうことが重要
しかし2度目以降参加しない人は少なくない.
旅費,トレーニング,その他,何が要因なのか調べる必要があるだろう

RFCを公開するのに,平均して3年の時間がかかる.
1度会議に参加して,あと8回来なければならない.

インターネット協会は以前,技術フェロープログラムを運営していて,目標の一部を達成した.
しかし,様々な理由からこれは中止された.
LLCが同様の取り組みを行えるかについて議論したが,多額の投資となるため,資金が不足してしまう.
また,フェローの選出にはプロセスが必要.

単に予算を上げてレバーを動かすことで解決するような問題ではないことは承知している.
アウトリーチはよいこと.ただし,そこには構造的な問題がある.
多様性を確保するには,桁違いの規模の資金が必要

大雑把にまとめると,以下のようになるでしょうか.
うまくまとめきれた自信がありません.

  • 今回のChairメンバーに多様性が欠けていると言われる直接的な要因は,そもそもChair候補者が"old white guy"ばかりであったことである
    • スキルをもつ,多様な候補者を求めている
  • 予算は重要だが,お金さえあれば解決する問題ではない
    • ともにアイデアを出し合い,解決に繋がる建設的な議論を経るプロセスが重要
  • 参加者の高齢化が進んでいる
    • 管理職や上級技術者ばかりとなっている
    • 参加に要する費用が年々増している
      • 参加登録費だけでも倍増している
      • RFC公開には平均3年,つまり9回の会議に参加しなければならず,負担が大きい
      • エンジニアが出席することを承諾してもらい,これを維持することはとても難しい
  • 1回きりの参加者が多い

少し本題から逸れますが,昨今,著名なOSSであっても収益化が難しく開発を取りやめるケースが散見されます.
これに対して,私が長期インターンシップでお世話になっているwolfSSLでは,

のデュアルライセンスモデルによって存続を可能とし,さらなる発展につなげています.

そうした観点でIETFを覗いてみると,果たして持続可能な取り組みと言えるのか疑問を感じました.
スポンサーシップや寄付に頼ったアクティビティには,どれほどの公共性があったとしてもいずれ限界が訪れることはいくつものOSSプロジェクトが証明しています.

利益に直結するとは言い難いIETFは,経済的に余裕のある企業や人材,すなわち"white old guy"やそれに準ずる方ばかりとなっているのではないでしょうか.
このような組織で,多様性を実現するにはどうするとよいか.
簡単な問題でないことは明らかですね.

「多様性を確保することは急務」とよく言われていますが,現場に立つ人からしてみれば最低限のスキルを持ち合わせていることは必須条件であると考えます.
無論,そうしたスキルを持っている人材がいるのであれば,そうした方を組み込むことで素晴らしい組織が出来上がることに異論はありません.
しかし,現在のIETFのようにそもそも候補者自体が偏ってしまっている現状があるのであれば,むやみやたらと構成人数におけるマイノリティの少なさを糾弾するのではなく,

  1. そうした方々にアウトリーチして,
  2. レーニングを提供し,
  3. さらに上のポジションを望む人には,より高度なトレーニングを提供することで素養を持つ人材を育成する

といった取り組みが必要だと考えます.
問題を把握した上で,いかに建設的な意見を作り出せるか.難しいですね.

またIETFにおいては,主目的である議論以外にかかっているコストが非常に大きいのではないかと感じました.
本質的でない部分にかかるコストを抑えることで,本来のターゲットであろう次なるインターネットを作り上げる人材が参加しやすい,発言しやすい環境を整備することが必要だろうと考えた次第です.

ここまで本格的な議論を目の当たりにしたのは初めてで,度肝を抜かれました.
新卒採用でもよく目にする "Diversity & Inclusion".
単に言葉で遊んでいるだけに留まってしまわないよう,我々1人1人のアクションが大切だと感じた1件でした.

続きはこちら.
紹介しきれていないIETF期間中のごはんや,Fisherman's Wharfについての記事です!

tamasan238.hatenablog.com